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仙台高等裁判所 昭和50年(ネ)15号 判決 1975年10月16日

控訴人(原告) 鈴木昭

被控訴人(被告) 有限会社笹谷タクシー

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取消す。控訴人が被控訴人の従業員として雇用契約上の権利を有することを確認する。被控訴人は控訴人に対し昭和四七年二月二四日以降毎月二八日限り月額金七万六、三二〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに第三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  訴外半沢郁夫は飲酒運転はしておらず、まして控訴人が右飲酒運転をそそのかしたことなどはなかつた。

(1) 右半沢は本件事故当日訴外赤間正と控訴人方を訪ねたが、控訴人方において酒は一滴も飲まなかつたし、料理店「奴」にいた約二時間半の間に酒をウイスキーグラスで約三杯飲んだだけであとはコーラを飲んでいた。控訴人と右半沢が「奴」のホステス訴外山口敏子と飯坂へ行つて飲むことになつたのは、右半沢が車を運転するため殆んど飲めなかつたので、同人の叔母がいる飯坂へ行き、車を預けて心置きなく飲むことができるようにするためであつて、単なる飲み直しのためではない。右半沢が控訴人方で飲酒したうえ「奴」まで飲酒運転し、さらに「奴」において相当酒を飲んだとすれば、この間の事情を知りながら右半沢に運転させ、酒をすすめた右赤間に対しても被控訴会社において懲戒処分をすべきであるのに、右赤間の責任を不問に付しているのは不可解である。

(2) 本件事故は大型トラツクを運転していた訴外水戸芳美の一時停止義務違反によるものである。控訴人は右事故を漫然と放置していたものでなく、右山口を病院へ連れて行くべく努力したが、同人が右半沢の車に乗ることや控訴人と一緒に病院へ行くことを拒否してトラツクに乗つてしまつたため救護できなかつたのであり、また、控訴人は右水戸に呼出されて警察には届けないようにと頼まれ、事故の直接の当事者でもないので警察への事故報告をしなかつただけである。右半沢は事故の責任をとつて退職したものではなく、被控訴会社に頼まれ、あとでまた雇うからといわれて退職したものである。

(3) 控訴人は本件解雇問題を全福島ハイヤータクシー労働組合の伊藤書記長に一任したが、組合大会において控訴人の言分を十分に聞かずに控訴人を退職させる方向で被控訴会社と話し合う旨の決定がなされたため、控訴人としては右決定が意外なものであつたが一任した以上やむを得ないと考え、退職願を提出するに至つたところ、被控訴会社から突然控訴人に対し懲戒解雇する旨の通知がなされた。控訴人は被控訴会社との交渉及び組合大会において発言の機会すら与えられずに解雇されたものである。

(二)  控訴人の行為は懲戒解雇事由には該当しない。

(1) 右半沢は前記のとおり飲酒運転をしていないのであるから懲戒事由が存在しないのは当然であるが、仮に右半沢が飲酒運転しているとしても、それは職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であり、仮にそうでないとしても、それはあくまでも右半沢の行為であり、控訴人には直接関係のないものであるから、懲戒事由には該当しない。

(2) 原判決引用の最高裁判所昭和四九年二月二八日第一小法廷判決は事案を異にし本件に適切でない。すなわち、(ア)右事案では「著しく不都合な行いのあつたとき」という労働者の私生活上の行為について懲戒を及ぼしうることを予定した懲戒事由が存するが、本件の場合にはその種の懲戒事由は存せず、「酒気をおびて自動車を運転したとき」という懲戒事由の適用が問題となつており、また、就業規則四八条では、すべて職務に関係のある行為が懲戒事由となつており、「非行」や「企業の信用体面を汚す行為」等は懲戒事由として規定されていないから、「酒気おび運転」も職務上の行為しか含まれないと解するのが合理的である。(イ)右事案では被解雇者自身が刑事処分を受けているが、本件の場合被解雇者である控訴人はいかなる意味でも刑事処分を受けておらず、右半沢も飲酒運転の理由では刑事処分を受けていない。(ウ)右事案では解雇者は公法人であるが、本件の場合には私企業であり、したがつて高度の公共性を有するかどうかは問題にならない。(エ)右事案では新聞紙上等で騒がれたが、本件の場合には一般人に報道されておらず、世間の話題にすらなつていない。本件の場合には、むしろ日本鋼管砂川事件についての最高裁判所昭和四九年三月一五日第二小法廷判決を引用するのが相当であり、控訴人の行為が被控訴会社の社会的評価を若干低下せしめたことは否定できないとしても、会社の体面を著しく汚したものとして懲戒解雇の事由とするにはなお不十分であるといわざるを得ない。

(3) 労働者と企業との関係は労働契約のみによつて創設され、労働力の取引を目的として、かつ、それに必要な限度において相互に拘束することが認められる人為的結合関係にほかならず、労働者としては労働時間内において通常予想される労働力を平均的に使用者に対して提供すればよく、提供する限度においては使用者から何らの拘束を受ける理由はないから、労働者の労働時間外における行為は原則として労働契約の解除の原因とすることはできないが、使用者が労働契約上の義務違反のほかに、特別の懲戒事由を労働協約、就業規則に挙げ、あるいは事実上何らの明文の根拠なく労働者を解雇することがある。かかる解雇をいかに解すべきかについては学説、判例の岐れるところであつて、大別して解雇自由説、解雇権濫用説、解雇の正当事由説があるが、労働契約上の義務違反に近似する事由がなければ労働契約上の義務違反以外の事由では解雇できないとする解雇の正当事由説が正当である。そのように解しなければ、労働者は私生活上の出来事にも使用者に対して気を使わなければならず、使用者、労働者双方の力関係を考慮した場合著しく労働者に不利になるからである。仮に解雇権濫用説に立つた場合でも、濫用になるか否かの基準について、判例は信義則違反、法益権衡、企業の合理的維持運営を目的とするか否か、解雇事由の明示等をあげ、とくに労働協約、就業規則に解雇事由が明示されていない場合に明示以外の事由をもつて解雇したのは無効であると判示する判例が存し、また、就業規則が限定列挙であることが明示されている場合は解雇事由がそれに限定され、限定列挙が明示されていない場合でも合理的に解釈すれば限定列挙である場合には解雇事由がそれに限定されると解釈されている。本件の場合には、労働契約上の義務違反ではないのであるから、正当事由説に立てばもちろんのこと、濫用説に立つたとしても就業規則に明示された解雇事由はなく、また、本件就業規則には「その他前各号に準ずる行為」という事由はないのであるから、限定列挙と解すべきであり、そうすれば控訴人の行為は就業規則上の解雇事由にはあたらない。

(三)  仮に懲戒事由が存するとしても、懲戒解雇にするのは合理的でない。すなわち、本件の場合就業規則四八条一〇号を私生活上の行為に準用し、飲酒運転の共犯関係に準用して懲戒権の範囲の限界ぎりぎりのところで控訴人の行為をとらえて解雇に付するのは妥当でなく、前記のとおり控訴人はいかなる意味でも刑事処分を受けておらず本件事故は世間の話題とすらならなかつたのであり、飲酒運転をした本人である前記半沢が懲戒解雇されず、飲酒をすすめた前記赤間も何らの処分を受けていないのであつて、同人らとの均衡上からも本件解雇は相当でない。

(四)  被控訴人の後記2(四)の主張は争う。

2  被控訴人の主張

(一)  控訴人主張の前記1(一)の(1)ないし(3)の事実中、訴外半沢郁夫が料理店「奴」へ行くまでの時点で飲酒していないことは争わないが、その余の事実はすべて争う。

(1) 右半沢は「奴」において相当酒を飲んでいる。訴外赤間正は「奴」からさきに帰宅しており、その後の右半沢の飲酒運転には全然関係していないし、控訴人方から「奴」へ行くまでの右半沢の運転は飲酒運転ではないから、被控訴人が右赤間に対する懲戒処分を行なわなかつたのは当然である。

(2) 本件事故は右半沢が酒酔いのため左右道路の安全を確認しないで高速で交差点に進入した過失によるものであり、訴外水戸芳美は交差点手前で一時停止したうえ徐行で発進している。控訴人は事故後訴外山口敏子を真実病院へ連れて行く意思があつたかどうかは疑わしく救護のための努力などはせず、右半沢と相通じて警察に報告もせず現場から逃走し、所在をくらましていたものである。被控訴人は右半沢に退職を依頼したことはないし、再雇傭を約束したこともない。

(3) 被控訴人は控訴人が一旦提出した退職願を数日後に撤回したため、やむをえず控訴人を懲戒解雇したものである。

(二)  同(二)については全面的に争う。

(1) 本件懲戒事由は、控訴人が右半沢の酒酔い運転を積極的に容認し、慫慂したこと、右酒酔い運転のため同人が交通事故を起し同乗者の右山口に負傷を負わせたこと、控訴人は右山口を救護せず事故報告もしなかつたことである。本件就業規則四八条一〇号は「酒気をおびて自動車を運転したとき」と定めており、職務遂行に関係ある場合に限定していない。酒気おび又は酒酔い運転は犯罪行為であり、交通三悪の一つであつて違法性はきわめて強く、しかも控訴人はタクシー運転手であり、自動車運転を職業とする者であつて、とくに安全運転義務は普通人よりきわめて強く要求され、職務外における運転の場合も同様である。タクシー会社である被控訴人にとつては、従業員の飲酒運転による交通事故は会社の社会的評価を著しく損うものであるから、職務上に限らず職務外の行為といえども、右懲戒事由に該当するものである。

(2) 従業員の職務外でなされた職務遂行に関係のない行為についても、使用者の懲戒権が及ぶことは最高裁判所の判例が認めるところであつて、そもそも使用者が従業員に対し課する懲戒は広く企業秩序を維持確保し、もつて企業の円滑な運営を可能ならしめるための制裁罰であり、利益追求を目的とする企業体である会社が名誉、信用その他相当な社会的評価を享けることは経営秩序、企業財産を維持し生産向上を図るうえにおいて欠くべからざるものであり、従業員の企業外の行為がそれ自体において不名誉な行為として社会的非難に値するものであり、その結果会社の社会的評価を損うおそれがあるとみられる場合は懲戒事由となりうるものである(最高裁判所昭和四九年二月二八日第一小法廷判決、同年三月一五日第二小法廷判決)。

もつとも控訴人は刑事処分を受けておらず、右半沢も飲酒運転について刑事処分を受けていないが、これは控訴人らが事故報告をせず逃走していたため、右半沢について飲酒検査ができなかつた結果刑事処分ができず、控訴人についても同様飲酒運転の教唆等による刑事処分ができないでしまつたものであり、事故後ただちに飲酒検査を受けていれば右半沢も控訴人も当然に刑事処分を受けた筈である。また、本件について新聞等に報道されなかつたのは、被控訴人が報道機関に懇請して報道を差止めてもらつたからであるが、本件は同業者間にはただちに知れわたつており、被害者である前記山口らから世間には相当伝わつており、被控訴人の信用は低下したものである。

なお、日本鋼管砂川事件における従業員の行為は破廉恥な動機、目的によるものでないと認定され、違法性が軽微なものであるが、本件は前記のとおり交通三悪の一つであり違法性はきわめて大きい。

(3) 使用者は企業秩序の維持確保及び企業の円滑な運営を図るため従業員に対して固有の懲戒権を有するものであるから、本件就業規則四八条が懲戒解雇事由を制限列挙したと解することには疑問があり、むしろ解雇事由を例示したものと解すべきであつて、企業秩序の維持又は企業運営に支障を生ずる事由は広く懲戒事由に該当するものである。使用者が特別の理由なく、自ら固有の懲戒権を制限することは考えられず、本件の場合、懲戒解雇以外の懲戒処分事由の規定がないことからみても、例示的規定であることを窺うことができる。

就業規則の解雇基準の解釈については、解雇基準が使用者の自発的一方的に設定するものであるところから、公権力をもつて制定される一般の法規と同視して抽象的客観的にのみ解釈することは使用者の意思に合わないものであり、結局は労働者の地位、職種、作業等の労働契約上の具体的事情、職場の規律、行動の動機、態様及び企業秩序への影響、使用者の事業の種類、態様、規模、経営方針等を総合参酌して、解雇を相当とするかどうかの価値判断を基にして、解雇基準の解釈及び準用を決定すべきである。就業規則による解雇基準の設定が解雇の自由の法理からみて、使用者が解雇権を自己制限したものと解するに足る十分な根拠はないとする有力学説も存する。本件の場合被控訴人が控訴人を懲戒解雇したことについては十分な懲戒事由があり、何ら就業規則に違反していない。

(三)  同(三)についても争う。本件就業規則四八条は前記のとおり解雇事由を例示したものと解すべきであるが、仮にこれが制限列挙であるとしても、その準用を否定すべきではないから、本件懲戒解雇処分は相当である。すなわち、就業規則は本来使用者の経営権の作用として一方的に制定、変更できるものであり、企業の利益保持に奉仕するものである。したがつて本件就業規則四八条も被控訴人が企業の利益のため、自己に対して自ら課した制約であるから、同条を使用者である被控訴人が企業利益保持の見地から解釈適用して当然であつて、その解釈が社会通念に照らし著しく不当な場合はともかく、そうでない場合は使用者の解釈適用については裁量をみとめ、その合理性を認容すべきである。

本件懲戒解雇処分は、控訴人の行為の内容、違法性、被控訴人の企業秩序及び企業の社会的評価に与える影響等からみても、前記半沢及び赤間との均衡上からみても相当であつて、何ら懲戒権の濫用にはあたらない。

(四)  仮に本件が就業規則による懲戒解雇にあたらないとしても、労働基準法二〇条一項但書による解雇として有効である。右但書の「労働者の責に帰すべき事由」があるときは、就業規則等に定めた解雇基準に該当すると否とを問わず即時解雇をなしうるものである。本件については、労働基準監督署長の除外認定を受けており、右認定は右但書に該当する事由があるか否かを確認する処分であり、労働基準監督署が使用者に対する行政監督上の手続として行なわれるもので、監督署としては、事実の確認、就業規則及び労働協約との関係、関係者の意見聴取等の調査を行ない、慎重に認定を行つている。被控訴人の控訴人に対する本件解雇は有効である。

3  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がなく、棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由中に説示するとおりであるから、右理由記載をここに引用する。

1  原判決七枚目表八行目の「山口敏子の証言」の次に「、当審証人加藤フミの証言」と挿入し、同裏一行目に「の証言および原告」とあるのを「、同赤間正、当審証人加藤フミの各証言および原審における控訴人(原告)」と、同一〇行目に「三人で」とあるのを「控訴人(原告)と赤間の二人」と、同八枚目表八行目に「献酬」とあるのを「献盃」とそれぞれ訂正する。

2  同九枚目表三行目の「半沢は、」の次に「ただちに停車して山口を救護することなく、」と挿入する。

3  控訴人が当審において援用した証拠を検討してみても、右引用にかかる原審の事実認定及び判断を動かすに足りない。

二  控訴人は当審において本件就業規則四八条は懲戒解雇事由を限定列挙したものであり、同条一〇号の「酒気おび運転」には職務上の行為しか含まれないと解するのが合理的であるとして、控訴人の行為は懲戒事由には該当せず、仮にしからずとするも、本件懲戒解雇処分は不相当である旨るる主張するから、この点につき若干補足する。

1  企業秩序の維持確保は、通常は従業員の職場内又は職務遂行に関係のある行為を対象としてこれを規制することにより達成しうるものであるが、従業員の職務外でなされた職務遂行に関係のない行為であつても、企業秩序に関連を有し、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、これを規制することが許されないと断ずることはできず、とくに被控訴人のようにタクシー営業を目的とする企業においては、常時顧客と接するものであり、安心して乗ることのできるタクシーであることが顧客から期待されているのであるから、職場外でなされた職務遂行に関係のない行為であつても、こと自動車運転に関する限り、他の企業と比較してより厳しい規制がなされうる合理的な理由があるものというべきである。本件についてみるに、控訴人の行為は職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、先輩の運転手として指導し、酒酔い運転をきびしく注意すべき地位にありながら、右半沢の酒酔い運転を容認し慫慂したものであつて、その違法性の程度は同人とえらぶところがないものというべきである。控訴人が刑事処分を受けておらず、右半沢も酒酔い運転について刑事処分を受けておらず、また、本件について新聞等に報道されなかつたことを勘案しても、被控訴会社の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認めることができるから、就業規則四八条一〇号の準用により懲戒解雇事由に該当するものというべきである。

2  懲戒事由に当る行為をした従業員に対し懲戒権者がいかなる処分を選択すべきかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、被控訴会社の就業規則にもその定めがないことは、引用にかかる原審認定のとおりであるから、右選択については懲戒権者の裁量が認められているものと解すべきである。もとよりその裁量は、恣意にわたることを得ず、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであつてはならないことも原審認定のとおりであるが、懲戒権者の処分選択が右のような限度をこえるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできないものというべきである。本件についてみるに、控訴人の行為は交通三悪の一つである酒酔い運転に加担したもので、違法性の程度は大きく、単なる偶発的な情状酌量の余地ある軽微なものではなく、他の従業員及び社会に与える影響、右半沢との均衡その他諸般の事情を斟酌し、さらに懲戒解雇処分の選択にあたつて特別に慎重な配慮を要することを勘案しても、なお、被控訴人が控訴人に対し懲戒解雇処分を選択した判断が合理性を欠くものと断定することはできず、右処分を裁量の範囲をこえた違法なものとすることはできない。

三  以上の次第で、控訴人の本訴請求は、被控訴人主張の爾余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却すべく、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郎 田坂友男 佐々木泉 )

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

(一) 原告が、被告の従業員として雇用契約上の権利を有することを確認する。

(二) 被告は、原告に対し昭和四七年二月二四日以降毎月二八日に月額金七万六三二〇円の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は、被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

(一) 被告は、一般乗用旅客の運送を目的とする所謂タクシー会社であり、原告は、昭和四五年八月三日被告にタクシー運転手として雇用されたものである。

(二) 被告は、昭和四七年二月二四日以降原告との雇用関係を争い、原告の就労を拒んでいる。

(三) 原告の昭和四七年二月当時における賃金は、月額金七万六三二〇円を下らず、毎月二八日がその支給日であつた。

(四) よつて、原告は、原告が被告の従業員として雇用契約上の権利を有することの確認と、被告が原告に対し昭和四七年二月二四日以降毎月二八日に月額金七万六三二〇円の割合による賃金を支払うこととを求める。

二 請求原因に対する答弁

請求原因(一)・(二)の事実は認め、同(三)のうち、賃金の月額を争う。

三 抗弁

原・被告間の雇用契約は、次のとおり解雇によつて消滅した。

(一) 懲戒解雇

1 解雇の意思表示

被告は、昭和四七年二月二三日原告に対して、同日限り懲戒解雇する旨の意思表示をした。

2 解雇の理由

(1) 原告は、昭和四七年二月九日午後九時半ころから同一一時半ころまで福島市内の簡易料理店「奴」で同僚の運転手・半沢郁夫と共に飲酒したが、更に飲み直すため、飲酒運転を承知で半沢にその自家用車を運転させ、「奴」のホステス・山口敏子と共に同乗して飯坂へ向い、折返し福島へ戻ろうとした。ところが、その途中、同月一〇日午前一時半ころ石堂交差点において、半沢が徐行のうえ左右道路の安全を確認すべき注意義務を怠つたために、折から右方より同交差点を通過しようとした水戸芳美運転にかかる貨物自動車の左後輪に自車の右前部を衝突させ、同乗の山口に対し加療約二週間を要する顔面打撲・頸椎捻挫の傷害を負わせてしまつた。それなのに、原告は半沢と意を通じて、山口を救護せず、警察への事故報告もせずに逃走した。

このように原告は、半沢の飲酒運転をそそのかし、衝突による人身事故を誘発させたものである。

(2) 被告は、タクシー会社であり、常に従業員に対し交通安全教育を厳重に行つていたもので、このまま原告を放置するならば、他の従業員に対する悪影響ひいては職場規律維持に支障が生じ、被告の信用を低下させるおそれがある。

(3) そこで、被告は、原告を含む従業員が加入している全福島ハイヤータクシー労働組合(以下「組合」という。)との労働協約(以下「協約」という。その抜萃は、別紙のとおりである。)第二二条により被告の就業規則(以下「規則」という。その抜萃は、別紙のとおりである。)第四八条第一〇号を準用して、原告を懲戒解雇にした。

3 解雇の手続

被告は、右懲戒解雇にあたり、(1)昭和四七年二月一五日、協約第二二条但書に基づいて組合の意見を聞き、(2)同月二三日、協約第二五条第一項但書に基づいて福島労働基準監督署長による解雇予告の除外認定を受けた。

(二) 普通解雇

かりに、(一)2(3)の理由による懲戒解雇が許されないとしても、(一)1の懲戒解雇の意思表示には、

1 協約第二四条第三号(懲戒解雇事由がある場合でも、普通解雇ができる趣旨に解すべきである。)・第二五条第一項但書による即時解雇の意思表示

2 かりに、1が理由ないとしても、協約第二四条第三号・第二五条第一項本文による予告解雇の意思表示(その効力は、三〇日の予告期間の経過により生ずる。)

が含まれるものである。

四 抗弁に対する答弁

(一) 抗弁(一)について、

1の事実は、認める。

2につき、

(1)のうち、被告主張の日時・場所において半沢運転の自家用車と水戸運転の貨物自動車とが接触したことは認め、その余の事実を否認する。

(2)の事実は、被告がタクシー会社であることを除き、否認する。

(3)のうち、原告の行為が協約第二二条・規則第四八条第一〇号に該当することは争い、その余の事実を認める。

3のうち、(1)の事実を否認し、(2)の事実は不知。

(二) 同(二)は、争う。

五 再抗弁

(一) 不当労働行為

1 原告は、被告の従業員をもつて組織されている組合笹谷支部の支部長の任にあつたものであり、次に述べるとおり積極的に組合活動を続けていた。

(1) 昭和四六年一一月ころ、組合員である同僚の運転手・加藤登が、業務中国鉄の踏切で事故を起し、被告から解雇の通告を受けたことがあつた。そこで、原告は、タクシー運転手が過失による事故を理由として簡単に解雇されるようでは、労働者の生活の安定がないとして、右解雇の撤回運動を起し、これに成功した。

(2) 同年一二月ころ、被告の山地専務が従業員に対し、人権無視の横暴な業務命令を出し暴言を吐くなどして、職場を暗くし労働条件を悪化させていた。そこで、原告は、組合の先頭に立つて山地専務の退陣を要求し、団体交渉をした結果、組合と被告との間で、山地専務の言動については社長が責任をもち、今後暴言等のあつたときは社長の権限で退陣させる・今後の労使間の問題については支部役員を通じて話合う・労使一体となつて明るい職場をつくる努力をする旨の協定書をとり交すことに成功した。

2 被告は、右のように組合活動を続ける原告を嫌悪し、組合を弱体化するために原告を解雇したのであるから、本件解雇は、不当労働行為として無効である。

(二) 解雇権の濫用

本件解雇は、権利濫用として無効である。

六 再抗弁に対する答弁

(一) 再抗弁(一)について、

1につき、原告が組合笹谷支部の支部長であつたこと、(1)のうち加藤登の踏切事故・解雇通告とその撤回の事実、(2)のうち原告主張の協定書がとり交されたことは、認めるが、その余の事実を否認する。

2の事実は、否認する。

(二) 同(二)は、争う。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因(一)・(二)の事実、被告主張の協約および規則の存在、被告が昭和四七年二月二三日原告を懲戒解雇にしたことは、当事者間に争いがない。

二 右懲戒解雇に至る経緯につき、成立に争いのない乙第一号証の一ないし八・一〇ないし一二・一五、第二号証の二、第三号証、証人山地金作の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第二号証の一、証人山口敏子の証言とこれにより真正に成立したと認める乙第五号証、証人半沢郁夫の証言、同証言と弁護士・大学一の印影の成立に争いがないこととにより真正に成立したと認める甲第一号証、証人赤間正の証言および原告本人尋問の結果によれば、次の事実(その中には、前記事実欄に摘示のとおり争いない事実がある。)を認めることができ、右甲第一号証、乙第一号証の七・八・一一・一五の各記載、証人半沢郁夫の証言および原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一) 昭和四七年二月九日午後七時半すぎころ、被告の従業員(運転手)である半沢郁夫がその自家用車(軽四輪乗用自動車)を運転し、赤間正と共に原告方を訪問した。当時、半沢は、試用期間中であつたが、近く本採用となり組合に加入する予定だつたので、組合笹谷支部長をしていた原告のもとへ挨拶に出向いたものであり、赤間は、同支部の副支部長をしていた。原告方では、三人で約五合ほど飲酒したが、三人とも勤務終了後であつたので、更に福島へ飲みに出ようということになつた。原告は、半沢が自動車を運転して来訪したことを、当初から知つていた。

(二) 三人は、半沢運転の自家用車で福島市万世町の簡易料理店「奴」へ出向いた。同店を選んだのは、原告が他の二人を奢るつもりで、付けの利く同店へ行くように指示したからである。同店では、同日午後九時すぎころから看板の同一一時半すぎころまで銚子二五本を飲酒したのであるが、赤間は三〇分位で帰り、あまり飲んでいなかつたので、その大半は、原告と半沢の二人で飲酒したものであり、原告は、半沢に対し先輩格で杯をすすめ、献酬を交すなど積極的に飲酒をすすめた。そして、看板後、更に飯坂で飲み直すことになつたが、そのために、半沢が後述のように飲酒運転することを、原告は、承知のうえで能動的に加わつたものである。

(三) そこで、半沢がその自家用車を運転し、助手席に「奴」のホステス・山口敏子を同乗させ、後部座席に原告が乗車して飯坂へ向い、スナツク「泉」に立ち寄つたのであるが、折返し福島へ戻ることとなり、前同様半沢が運転して帰途についた。その間、半沢は、かなりのスピードを出し、同乗の山口が前後左右にゆれるため恐いと感じたほどであり、明らかに酔のため正常な運転ができない状態にあつたけれども、原告は、これを制止せずなすがままに容認し、後記事故時には後部座席で仮眠していた。

半沢は、終始後輩として原告を立てる態度で行動していたから、原告は、これまでに述べた半沢の飲酒および酒酔運転につき、先輩として能動的に加担したものと認めざるをえない。

(四) かくて、同月一〇日午前一時半ころ、半沢は、その自家用車を運転して福島市飯坂町平野字遠原六番地の二先石堂交差点に差しかかつたところ、折から右方より同交差点を通過しようとしていた水戸芳美の運転する普通貨物自動車の左後輪に自車の右前部を衝突させ、同乗の山口に対し加療約二週間を要する顔面打撲・頸椎捻挫の傷害を負わせてしまつた。しかし、半沢は、そのまま逃走して警察へ事故の報告をせず、原告もまた、事故のシヨツクで目を覚ましたがそのまま放任し、後刻相手車運転の水戸に会つた際、同人に対し警察へ事故の報告をしないように頼んだ。

右事故は、半沢において、右交差点の信号機が黄色の点滅信号を示していたので、同交差点の直前で徐行し左右道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、飲酒の影響でこれを怠つた過失により惹起されたものである。半沢は、その後、右事故の責任をとつて任意退職したが、更に、右業務上過失傷害被告事件につき、同年六月一五日福島簡易裁判所において罰金二万円に処された。

(五) 被告は、原告の右所為につき規則第四八条第一〇号を準用して懲戒解雇にすべきものと考え、協約第二二条但書に基づいて、同年二月一一日組合の意見を求めると共に、協約第二五条第一項但書に基づいて、同月一四日福島労働基準監督署長に対し解雇予告除外認定の申請書を提出した。

組合では、伊藤書記長が笹谷支部の役員とも協議のうえ、同月一一日被告に対し原告の解雇に反対の意見を伝えたが、同月一三日に開催された笹谷支部の臨時大会において、圧倒的多数により原告の解雇に反対せず原告を支援しない旨の決議がなされ、原告は支部長を解任され、新たに支部役員が選出されるに至つたので、伊藤書記長は、被告と団交をもち、被告から退職金七万円で原告を任意退職させてもよい旨の返答を得た。そこで、原告も、同月一四日被告に対し退職願を提出したところ、翌一五日の笹谷支部臨時大会において、原告に退職金を支給することに反対し、その旨を会社に申入れる旨の決議がなされたので、原告は、右退職願を撤回するに至つた。

かくて、被告は、前記除外認定申請の結果を待つていたところ、同月二三日右認定を得たので、即日原告を懲戒解雇したものである。

三 ここで、懲戒解雇に関する協約および規則の規定について検討する。

(一) 協約第二二条本文によれば、「懲戒に関しては就業規則に依る」ものとされているので、懲戒解雇事由については、規則第四八条の規定によることとなる。ところで、協約第二四条は、「組合員が懲戒解雇の処分をうけたときは解雇する」旨規定しているが、その趣旨は、懲戒解雇事由があるときは、懲戒解雇の形式で解雇する・つまり懲戒解雇も解雇の一種であることを確認したものと解される(更に、懲戒解雇事由があるときでも普通解雇ができる趣旨をも含むかどうか、についてはさておく。)。

したがつて、懲戒解雇の手続(規則第四七条第七号をも参照)としては、協約第二二条但書によつて組合の意見を得るのみならず、協約第二五条に従い、予め組合と協議の上組合員に通知し、行政官庁の除外認定を得た場合は即時解雇する、ということになるわけである。

(二) 規則第四八条第一〇号は、単に「酒気をおびて自動車を運転したとき」と定めているが、右事由は、職務遂行に関係のある場合だけではなく、職場外の職務遂行に関係のない酒気おび運転であつても、それが企業秩序に影響するとか、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、これをも含む趣旨と解すべきである(最高裁判所昭和四九年二月二八日第一小法廷判決・民集第二八巻第一号六六頁参照)。

(三) 規則第四八条第一〇号を準用して、懲戒解雇事由とすることができるであろうか。

思うに、使用者が従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もつて企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であるから(前掲最高裁判所判決参照)、使用者が就業規則に懲戒事由を規定するのは、右固有の懲戒権の行使を自律的に制約することにほかならない。また、就業規則に懲戒事由を規定すれば、恣意的な懲戒権の行使が妨げられ、従業員の地位を保障する機能を果すものである。したがつて、右懲戒事由の規定については、それが使用者の自己抑制であることに鑑み、従業員の保護をも考慮して、合理的に解釈すべきものと考える。

ところで、本件において、規則中に第四八条に掲げる事由が限定列挙である旨・つまり右事由による場合のほか懲戒を受けることはない旨を明示した規定はない(ちなみに、譴責・減給・乗務停止・出勤停止については、その内容に関する規定があるのみで、それに応じた懲戒事由を明示した規定がなく、規則第四八条自体に誤植等の存することは、別紙のとおりである。本件就業規則の規定に不備があることを物語るものといえよう。)。また、世上、就業規則においては、懲戒事由を列挙した末尾に「その他前各号に準ずる事由」のごとき概括的規定をおいているのが通例であるが(本規則において、何故に右のような概括的規定を欠くのか、その間の経緯は明らかでない。)、このような概括的規定は、従業員の保護を考慮し、違反の類型および程度において列挙事由と客観的に相応するものでなければならないものと考えられる。以上の点を考慮のうえ、タクシー営業という被告の企業の特殊性を斟酌するならば、懲戒解雇事由として規則第四八条第一〇号を準用することは、先に説示した合理的解釈の範囲を超えないものとして許されるところというべきである。

(四) 規則第四八条によれば、所定の懲戒解雇事由に該当する場合でも、情状によつて減俸又は懲戒休職にすることができる(つまり懲戒解雇が原則である)旨規定されているが、懲戒解雇は、従業員の地位喪失という重大な結果を招来し、特に慎重な配慮を要するものであるから、右規定は、情状の重いときに懲戒解雇ができるとの趣旨を含むものと解すべきである。ところで、右懲戒の種類選択に関する具体的基準の定めは、規則中に存しないから、右選択については、懲戒権者の裁量が許されるものというべく、その裁量は、恣意にわたることをえず、当該違反事由との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであつてはならないと解すべきである(前掲最高裁判所判決参照)。

四 進んで、本件懲戒解雇の効力について判断する。

(一) 懲戒解雇事由は、存在する。

前記二(一)ないし(四)で認定した原告の所為は、規則第四八条第一〇号の事由に直接該当するものではない。

しかし、前叙半沢の所為が右懲戒事由に該当することは明らかであり、原告は、右認定のように、半沢がその自家用車を運転することを知りながら、積極的に飲酒をすすめ同乗する等右半沢の酒気おび運転に加担したものであるから、いわば酒気おび運転の共犯ともいうべき所為と認めることができる。また、右原告および半沢の所為は、職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、両名の職種(運転手)および被告の企業(タクシー営業)の特殊性に鑑み、被告の企業秩序に影響を及ぼし、被告の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものといわなければならない。したがつて、右原告の所為は、前記三(二)(三)の説示に従い、規則第四八条第一〇号の準用による懲戒解雇事由に該当するものである。

(二) 懲戒解雇の選択は、相当である。

原告の本件所為は、その態様において、長時間にわたり半沢と多量の飲酒をし、終始半沢と行動を共にして、先輩でありながらその酒気おび運転に積極的に加担し、ひいては人身事故を誘発したものであり、事故後の措置もよろしきをえたものではない。とくに、原告は、タクシー営業に従事する運転手であつたから、右所為が職場外でなされた職務遂行に関係のないものであつたことを勘案しても、その情状は、決して軽いものではないというべく、右原告の所為が同僚に与えたであろうシヨツクの程も、前記二(五)で認定した経緯から窺い知ることができ、無視することはできない。現に、半沢は、任意退職してその責任をとつているのである。

以上の事情を考慮するならば、本件懲戒解雇は、前記三(四)で説示した裁量の範囲を超えるものではないというべきである。

(三) 懲戒解雇の手続は、履践されている。

前記二(五)で認定した事実によれば、前記三(一)で述べた懲戒解雇の手続が履践されたことは明らかである(そうである以上、右手続に関する協約の規定が、効力要件であるかどうかを判断する必要はない。)。

(四) 不当労働行為ではない。

前叙のように、原告は組合笹谷支部の支部長であつた。そして、原本の存在と成立につき争いのない甲第二号証の一・二、証人山地金作の証言および原告本人尋問の結果によれば、原告が再抗弁(一)1(1)(2)(山地専務が人権無視の横暴な業務命令を出し労働条件を悪化させていたとの点を除く。)で主張の事実(その中には、前記事実欄に摘示のとおり争いない事実がある。)を認めることができる。しかし、これまでに述べてきた懲戒解雇の事由および手続等の経緯に照らすならば、右の事実だけから、本件懲戒解雇の決定的原因が原告主張のごとくその組合活動にあり、被告が組合の弱体化をはかつたものとは、とうてい認めることができず、他に、右不当労働行為の事実を窺わせる立証もない(現に、原告自身が本人尋問において、被告から原告の組合活動を具体的に妨害されたことはない旨を供述し、また、原告が事故後退職願を提出したこともあつたことは、前叙のとおりである。)。

(五) 懲戒解雇権の濫用ではない。

これまでに説示してきたところによれば、本件懲戒解雇をもつて権利の濫用といえないことは明らかというべく、他に、右濫用という原告の主張をなつとくさせるに足る立証もない。

(六) 以上のとおりであるから、本件懲戒解雇は有効というべく、これによつて、原・被告間の雇用契約は、昭和四七年二月二三日限り終了したものである。

五 よつて、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は、すべて失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のように判決する。

(別紙)

労働協約抜萃

(表彰懲戒)

第二十二条 表彰及び懲戒に関しては当社就業規則に依るものとする。

但し、懲戒については組合の意見を得るものとする。

(解雇)

第二十四条 会社は組合員が次の各号の一に該当したときは解雇する。

一、本人が死亡したとき

二、休職期間が満了となり復職しないとき。

三、懲戒解雇の処分をうけたとき

四、精神若しくは身体の故障又は虚弱、老衰、疾病等で医師の診断により業務にたえられないと認めたとき。

(解雇の予告)

第二十五条 会社は前条第三号第四号に該当する場合は三十日前に予告するか又は平均賃金三十日分の解雇手当を支給する。

但し、行政官庁の認定を得た場合はこの限りでない。

2 前項の予告日数は一日について平均賃金を支払つた場合はその日数を短縮することがある。

3 会社は前条第三号、第四号に該当する場合は予め組合と協議の上組合員に通知する。

就業規則抜萃

(懲戒の種類)

第四十七条 懲戒は次の各号としその一又は二以上を併科する。但し反則が軽微な者に対しては訓戒に止める事がある。

その決定は各種の情状を考慮して社長が決定する。

一 譴責   始末書をとり将来を戒める。

二 減給   始末書をとり一回について平均賃金の半日分以内を減給し将来を戒める。

三 乗務停止 始末書をとり一定期間乗務を停止し教育をうけさせ、或いは指示した他の業務に従事させる。

四 出勤停止 始末書をとり十五日以内出勤を停止しその期間中は賃金を支給しない。

五 減俸   始末書をとり六ケ月以内減俸する。

六 懲戒休職 始末書をとり三ケ月以内の期間休職とする。

七 懲戒解雇 予告期間をおかず直ちに解雇し退職手当を支給しない。

(懲戒解雇)

第四十八条 一(ママ) 従業員が次の各号の一に該当する場合は懲戒解雇する。

但し、情状によつて減俸、若しくは懲戒  (ママ)とすることがある。

<1> 無断欠勤が多く又出勤不良で数回にわたり注意を受けても改めないとき

<2> 職務(ママ)上の罪にとらわれた者で解雇することを適当と認めたとき

<3> 刑事(ママ)上知り得た会社の重大な秘密を社外にもらしたとき

<4> 会社の金銭、物品を横領窃取したとき

<5> 職務上の指令に不当に反抗し秩序を乱したとき

<6> 故意又は重大なる過失により会社に損害を与えたとき

<7> 乗客より不正な料金を収受横領したとき

<8> 雇入の際採用条件の要素となるような経歴を詐称したとき

<9> 許可なく会社の車輛を私用又は社外の者に貸与した時及び他に運転させたとき

<10> 酒気をおびて自動車を運転したとき

<11> 法令及び就業規則、労働協約の約定に反し、争議行為を行い又は行わせた時及許可なく組合活動若しくは政治活動を行つたとき

<12> 料金メーター、タコメーター不正操作を行つたとき

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